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『山伏地蔵坊の放浪』~どこか民話のようなミステリ~


さすらいの山伏地蔵坊が、自らの経験談としてミステリを語るという連作短編集。
現代に山伏?というところや、その場にいて話を聞いている面々の時代がかったセリフなどその時代錯誤な雰囲気がよい。まるでクリスティのシリーズを読んでいるような、どこか懐かしい気分にさせてくれる。
こういう安楽椅子探偵ものは好きだ。主人公達がリアルタイムで事件と対面するサスペンスも嫌いではないけれど、どちらかというとのどかな午後に紅茶とクッキーを用意してゆったりと作品の世界にひたれるのがタイプだ。そこでは非日常も殺人事件もどこか遠い世界のように感じる。どろどろとせずまるでお伽噺のように楽しめると思うのだ。
毎週土曜日になるとバー「えい ぷりる」に集まる面々。
僕を含めてみなが楽しみにしているのは、山伏である地蔵坊先生が諸国を旅して遭遇した奇妙な事件達。
どこまでがホントでどこからが嘘なのか、彼の正体も謎が多いがそれ以上にミステリアスな出来事への興味が強い。ついつい僕達は毎週、地蔵坊先生の飲み代を代わりに引き受けてしまうのだった・・・。
私は最初「ローカル線とシンデレラ」だけをアンソロジーで読んでいたので、その時はそれほど興味をもたなかった覚えがある。ただはじまりと終わりがしっかりとしていて読みやすい文章だなと思った気がする。ひょっとすると、それが一番最初にであった有栖川有栖作品だったのかもしれない。
この短編集のアイデアやトリックはどれも小粒な感じはするのだけれど、それを語る口調がとてもおもしろく、まさにその場にいる人々を話に引き込む話術に長けていると思う。こんな集まりがあればぜひ毎週参加したいくらいだ。
また山伏のうさんくささがとてもよく表れていて「もしかすると全部この人の創作なのかも・・・」と疑いたくなる部分もよい。話がやや大げさだったりトリックが力業だったりしても「もしや・・・」の部分で許せちゃうものなあ。
鮮やかなラストも含めて全体的によくまとまっていると思う。
お気に入りは「毒の晩餐会」「死ぬ時はひとり」かな。短い中にうまくドラマがあると思った。
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