いくつもの週末と本
大好きな作家や本、おすすめの小説の感想などを気ままに書きたい時に書きたいだけ
| ホーム |
『容疑者Xの献身』~頭脳戦による驚愕のトリック~




直木賞を受賞した東野圭吾渾身の一作。
湯川先生シリーズは『探偵ガリレオ』『予知夢』に続いて三作目だが、それぞれ独立しているので前作を読んでいなくとも問題ない。
前の二作がどちらも短編・中編集で今回が初の長編ということでこの作品はやや異色だ。また、全体に漂う雰囲気が前の二作とは明らかに違い、静かで重々しいものとなっている。
読者には最初から事件の経過が記されている。
厄災しかもたらさない元夫に押しかけられ、揉み合いになった末殺人を犯してしまう靖子。現場には娘もいたため、自首するという彼女を娘が止め問答していると、事件に気がついた隣人の石神が訪ねてくる。
高校で数学を教える石神は親子に、自首は止めないがもしそうでないならば協力すると申し出る。不審に思いながらも石神に事件の処理を任せる親子。
果たして石神はどのようにして親子を救うのか・・・。
読み始めて最初はなんだか地味な話だなと思っていた。
犯人もその殺人方法もわかってしまっているので、後はどのようにして隠すのか、そしてそれが暴かれるのかしかないと。
でも事件解決に協力することとなった湯川が奇遇にも石神と同級生だったことが判明し、過去のエピソードが語られると徐々におもしろくなってくる。
これは頭脳対頭脳の戦いだ。
どちらも相手にとって不足なく、また互いに一目置き敬意をもっている。
だが、かたや大学教授となり見た目もよい湯川と、一介の高校教師で「だるま」とあだ名される石神とでは、あまりにも対照的でつい石神を応援したくなってしまう。
後半事件の謎がおぼろげにわかるにつれ、石神の後には引けないなみなみならぬ決意も感じ余計にその思いは強くなった。
その分湯川の苦悩も深くなる。
殺人を犯してしまった親子がいかにつつましく生きてきたか、それに協力した石神の気持ちもわかるだけに「この謎を解くことは誰の救いにもならない」と思えてしまうのだ。
だがそれでも湯川も後には引けない、ひいてはならない。
信念対信念のぶつかりあいの末、物語は結末を迎える。
なんとなくだった違和感が次第に形を作り、事件の謎が明らかになるのは後半だが、もしかしてこうなのでは?から完全にわかった!の瞬間はまさに身震いした。
はっきりとそれしかないと確信しながらも、まさか!の思いがすてられない。
だって、それじゃあんまりじゃないか。
石神の思いの深さを見せつけられ、やるせなくたまらない気持ちになった。
東野圭吾はなぜこんな話を思いつくのだろう。石神という人物なしにこのトリックは成立しないし、このトリックがあるからこそ石神という人間のすごさが際立つのだ。
ミステリとしての完成度の高さもさることながら、小説としての感動も深い。文句なしにおすすめの一冊だ。
![]() | 容疑者Xの献身 (文春文庫) (2008/08/05) 東野 圭吾 商品詳細を見る |
スポンサーサイト
<<『探偵ガリレオ』~科学を利用した犯罪とそれを暴く科学者~ | ホーム | 『死神の精度』~天使でもなく悪魔でもない 言うなればサラリーマンですよ~>>
コメント
コメントの投稿
トラックバック
| ホーム |