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『そして父になる』〜選択せざるをえない残酷さ〜



たまたまテレビで放映されていたのを、なんとなくながら見で最後まで見てしまった。
惜しむらくは、途中お風呂に入っていたため、けっこう物語にとって重要と思われる“自分の息子が実の子ではないという告知”部分をごっそり見逃してしまったことだ。
主人公のエリートサラリーマンを演じるのは、言わずと知れた福山雅治。
有名人が演じると、どうしてもそれまでのその人のイメージが強くなりがちだが、この映画は不思議とそれを感じさせない。年齢のわりに福山雅治に「父親」の印象が皆無なのも大きいかもしれない。
6年間育ててきた息子が実は病院で取り換えられており、本当の息子はこちらでその家族はこちらですと告げられたふた家族。前述のように福山雅治と尾野真千子夫妻はエリートサラリーマン一家で一人息子、片やリリーフランキーと真木よう子夫妻は町の電気屋で息子は三人兄弟の長男と何もかも対照的だ。
子供を「本当の家族」のもとに戻すために、互いに交流し交換して過ごすふた家族。それは子供達の戸惑いと両親の苦悩の日々の始まりでもあった…。
是枝監督のうまさは映像美もさることながら、役者に演技をさせ過ぎない「自然な」表情を引き出すことにあるだろう。過剰な演技や演出は見ている際には心惹かれるが、こういった身近な題材での共感性は生まれにくい。ただでさえ美形な役者陣を起用してハードルを上げてしまっているのだから、華美な装飾は余計だ。
キャスティングの心配もなんのその、視聴者はやすやすと福山雅治に尾野真千子に真木よう子に自分を重ね共感してしまう。むしろパッと見はそこらのおじさんなリリーフランキーこそできすぎな理想のお父さんで、なかなかあんな人はいないと思えてしまう。
尾野真千子が息子敬太をバスの中で抱きしめポツリとつぶやく「このまま2人でどこか逃げちゃおうか…」真木よう子が吐き捨てるように言う「自分で育ててないからそんなこともわからないんだよ」
どちらの母親も息子を思う気持ちに変わりなく、父親が対照的なのとは異なり両者はやや尾野真千子が繊細で真木よう子が豪快というくらいしか違いはない。その差も生活レベルではなく、第一子のみか兄妹3人を育てているかからきていると思われる。
実際に母親同士は電話で子供の様子を報告し合うママ友のような関係になるのに対し、父親同士は最後までどこか距離感のあるライバルなのも興味深い。
そして大人を中心に描かれつつも、この映画でうならされるのはひとえに子役の演技だろう。もはやこれは演技ではないのでは?と思うほどの臨場感だ。2人の息子を演じる男の子は決して「上手い」役者ではない。むしろ時折滑舌が悪かったり、大事な場面でうつむいてしまい表情がわからなかったり、そんなシーンも多々ある。だがそれらがマイナスにならないくらい光るのだ。両親に言われるがまま、よくわからないけれど知らないおじさんおばさんと一緒に過ごすこととなった戸惑い。実の父親からなんとなく感じてしまう拒絶。納得がいかない説明に何度も「なんで?」と問いかける様。
複雑な心境を見事に演じ切っている、いやどう見ても演技ではなく感情がそのまま吐露されている。そう思わせるくらいの自然さだった。
自分の身に置き換え考えると、一見育ての子供以外には選べないのではないかと思ってしまう。隣に眠る3歳児がある日突然他人の子供ですと言われてもその証拠が複数あったとしても、やはり何かの間違いではないかと思うし、この子を手放すなど想像もつかない。それはまだ8ヶ月しか育ててない第二子にしても同様だ。
ただ、それが生まれてすぐ取り違えられて数分だったら?迷いなく本当の子供を選ぶだろう。では数時間なら?数日なら?
自分の子供は迷いなく目の前にいるこの子だと断言できる境界はどこにあるのか。ただ時間を共有したからと言って親子になるわけではなく、血のつながりがあるから親子なわけでもない。普通はそのことを選択させられたりしない。その点でもこの「血のつながりか育ての子か」の二択を迫られるのは残酷だと感じる。
葛藤する二つの家族、その苦悩の中出した結末はぜひ本編を観てもらいたい。
作品中尾野真千子が何気なく口にし苦しむ「琉晴がかわいくなってきた」は様々な意味を含んでおり深い。実の子がかわいいという当然の気持ちにさえ罪悪感を覚えてしまう。そんな母親の心境をひとつひとつ丹念に描ききっていることが、この映画全体の魅力でもあるだろう。
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