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『魔術はささやく』~人は声をひそめられるほどより耳を澄ます~



公金横領という罪を犯し蒸発した父、心労から早くに亡くなった母。
残された少年守は叔父一家のもとに引き取られる。
親切な浅野家で叔父夫婦や年上の従姉妹に親切にされ、平穏に過ごしていた守。
だがタクシー運転手である叔父が、突然車の前に飛び出した女性を轢いてしまったことで逮捕され、窮地に立たされる。
実は飛び出した女性は、ある者によって引き起こされた殺人事件の3番目の被害者だったのだ。
さらにその魔の手は4人目にものびようとしていた・・・。
私が一番始めに読んだ宮部みゆきの作品がこれ。
当時からやや時代設定の古さは感じられたが、その文章の巧みさストーリーの組み立てのうまさに感心した。
著者は本当に人物を描くのが上手で、彼女にかかると単なる同級生やバイト先の人でさえも生き生きとその輪郭を表す。
読んでいる最中に温度を感じられるというのだろうか、主人公がその生い立ちから嫌がらせをされた時はこちらまでカッと頬が熱くなり、まじりけのない純度100の憎しみにさらされるとじわじわと指先まで寒くなる。
また魅力ある年配の男性を書かせたらピカイチで、錠前屋のおじいさんと守のエピソードがとてもいい。
ひとつひとつのエピソードを丹念に重ねてゆくからこそ守の気持ちが手にとるようにわかり、その葛藤が強く伝わる。
ミステリとしてはトリックよりもストーリー重視の部分が強く、伏線の回収の仕方が意外だった。
ビリヤードのようと言ったらいいのか、目をつぶって打ったボールが次にどの球に当たるのか予測不能で、思ってもみなかった方向に話が展開してゆく。
謎解きもさることながら主人公である守の成長物語としても秀逸だ。
途中途中でなんらかの選択を迫られ、そして最後に一番大きな選択をする守。
彼が選んだ結末と、そのセリフがとても印象的だ。
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