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『イン・ザ・プール』~表紙の赤ちゃんが伊良部かと・・・思い込みって怖いよね


精神科医伊良部シリーズの第一弾。
連作短編集になっていて、毎回なんらかの変わった病状を訴える患者が伊良部総合病院にやってきて・・・というパターン。
これが河合隼雄や斉藤学の本だったら臨床に基づく症例集となるのだろうが、そこはあくまでも小説。
おもしろおかしく奥田英朗なりの色付けがほどこされていて、専門的知識がなくともすらすらと読める。患者の抱える症状のみでなくその治療法も現実と異なりとんでもないもの。
でもなぜか実際の臨床と通じる部分があって、なるほどなと感心させられる。
きっとそれは伊良部が「なぜそのような症状が起こるか」という問題の本質を突いているからであり「医者が治すのではなく患者本来の治癒力を引き出す」という精神療法の本質に基づいているからだと思う。
伊良部総合病院は立派な建物で患者数も多く賑わっている。
だがその神経科はなぜか地下にあり、精神科医である伊良部一郎は童顔色白でデブのマザコン。おまけに注射フェチで、初診の患者には意味もなく注射を打ちたがる困った性癖もある。
唯一の看護師マユミは美人でスタイル抜群だが愛想がなく、なぜか露出の多いナース服に身を包みまるでコスプレのよう。
そこを訪れる患者が語り手だが、彼らもなかなか変わっている。
運動不足から始めたプール通いにはまり泳がずにはいられなくなってしまった編集者、勃起した状態で棚から落ちた広辞苑が直撃しそのままおさまらなくなったサラリーマン、ストーカーに尾行されている気がして眠れなくなり友人からは自意識過剰だと言われたコンパニオン、携帯が手放せなくなり一日にメールを200回以上してしまう高校生、タバコの火で家が燃えていないか、ちゃんと消したか確認せずにはいられないルポライター。
彼らを伊良部がどう診察し助言するかが本作のメイン。
だがしょっぱなから怪しげな医者が浮き浮きと自分に注射をし、あってるんだかないんだかわからぬ指示をするものだから主人公達は例外なく混乱する。
そして問題行動がどんどんエスカレートしてしまい、もうダメだ!と思った瞬間に伊良部が登場し・・・とまるでヒーロー者のような活躍をみせる。
読者もつい主人公達に感情移入してしまい、伊良部のキャラにイライラしながらどうなるのだろうとハラハラさせられる。
特に前に前に出てくる伊良部が「まあまあ」とおちゃらけている様は、まるで 『猫丸先輩の推測』 の猫丸先輩のようでかなりイライラ度は高めだ。
その分終わりはカラッとしていて、あれ?そういえばムカついてたんだっけ?でもなんかすっきりしているぞというのがミソ。
奥田英朗が描く人間像はわりとこんなキャラが多くて、ひとくせふたくせあってもなんかにくめない、気がつくとちょっと好きになってしまいそうな人物がよく登場する。
いやでも色白デブなマザコンはやっぱり勘弁かな。にしても医者のイメージは例外なくポルシェだよね。
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