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『桜さがし』~大人になるのもわるくない~



四人の男女とその恩師である初老の男性を描いた連作短編集。
ひとつひとつの話が短くさらりと読め、そのくせどれも印象深くほっこりと心に残る作品。
舞台が京都ということもあり、質の良い和菓子の詰め合わせをいただいて、どれから食べようかとその美しい造形にわくわくし心躍るような気持ちになった。
元教師の浅間寺竜之介は退職し京都の山奥に住まいをかまえた。
そこに中学校の教え子だった綾、陽介、歌義、まり恵が訪ねてくる。彼らはそれぞれ人生の岐路に立っていて、恋愛や将来に不安や悩みを抱えている。
十代の頃のようにはいられない、微妙に変化する彼らの関係。ずっと同じ人を想い続ける者もいれば、つきあったり別れたりをくりかえしてしまう者もいる。
わかっていても切なくなる。一生懸命であるが故の不器用さ。
ちょっとしたミステリを交えながらもそれらはあくまでスパイスとして、彼らの青春ドラマがメインとなっている。
舞台が京都というのがいい。
やわらかな京都弁もそうだが、京都の山深さ自然の趣にふれるともうそれだけでいいなと思えてしまう。
遠くから見るとあこがれが詰まっていて、身近に暮らしているとその排他的な雰囲気や冷たさに窮屈になり、遠く離れるとその人情的なところがまた懐かしくなる。なんとも不思議な場所だ。
全体として甘くやさしい雰囲気がただよっていて、著者のハードボイルドな作品や、女性特有のどろどろやいやらしさを描いた作品を知っているだけに驚いた。
思わず表紙を見返して、これって柴田よしきだよね?北村薫や加納朋子じゃないよね?と確認してしまったくらい。
少し毎日に疲れたな、休みたいなという気分の時に読むとなおいい。縁側で上質なお茶を飲んだかのようなほっこりとした気分が味わえる。
ちなみにこの話は続編があり、彼と彼女の恋愛模様が気になる方はぜひおすすめ。
『流星さがし』は青春恋愛ものというよりも新人社員の成長物語となっていて、また違ったおもしろさが楽しめる。
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