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『百田尚樹「殉愛」の真実』〜百田よ、これがノンフィクションだ!〜



歌手でタレント、やしきたかじんの亡くなる直前の2年間を描いたという百田尚樹著書『殉愛』を知ったのはMr.サンデーだった。ノンフィクションを謳ったそれの、ご丁寧に用意された長時間の再現ドラマを観て激しく違和感を覚えた。それは嫌悪に近いものだったかもしれない。
その時から私は、なぜこの本が出されたのか、なんのために出されたのかずっと疑問を抱いていた。
亡くなった著名人を描いたノンフィクションと聞くと、一般にどんなことを想像するだろう?その人の残した功績や人となり、テレビなどでは伝わりにくい素の側面などではないだろうか?
『殉愛』には、それらが全く描かれていなかった。それどころか、やしきたかじんという人物がいかに情けなく自分勝手で、どうしようもない人間かが嫌というほど連呼されていた。
対照的に、彼を介護し亡くなる3ヶ月前に入籍した妻さくらは、いかに素晴らしい人物で彼に献身的に尽くし支えたか滔々と語られていた。
たかじんの闘病記のはずなのに主役は妻のさくら、それもただスポットを当てただけでなく、さくらが光ならたかじんは陰どころか負の印象にまで貶められていた。しかも著者百田尚樹はじめ出版元の幻冬舎は、これがノンフィクションであり感動の作品だと豪語するのだ。
違和感は他にも及ぶ。『殉愛』では徹底的に悪人として描かれる、たかじんの一人娘と亡くなるまで尽くしたマネージャー。彼らは本当にこのような人物なのか…?
なぜ『殉愛』が書かれなければならなかったのか、なんのため書かれたのか、私はずっと疑問だった。
同時に、それまで“たかじんが亡くなる直前に入籍した妻”でしかなく、表に出てこなかった「さくら」という女性にとても興味を持った。
ノンフィクションを謳った『殉愛』では、独身でアメリカ留学経験があり、イタリアでネイルサロンを経営する女性「さくら」
発売後、本人がしていたブログからたかじんと出会った時には既婚だと判明する「さくら」に、その捏造をTwitterで認めながら謝罪の一言もない著者百田尚樹。
なぜ『殉愛』は捏造を含みながらもノンフィクションとして書かれなければならなかったのか、なんのために書かれたのか。
『百田尚樹「殉愛」の真実』は、そんな私の疑問に応えてくれる一冊であり、真のノンフィクションである。
やしきたかじんのファンが本当に知りたかった、彼の素の側面もここにはある。たかじんの二番目の妻と本に寄稿してくれた弟から語られるたかじんにも注目だ。
そして何より『殉愛』では光でしかなかった「さくら」の闇の側面、その謎がきちんと描かれている。そもそも「さくら」はたかじんの光だったのか…?
ぜひ、この本を買って手にとり読んで欲しい。
既に私はこの本の続編を期待しているが、多くの読者からの反響がその後押しとなるだろう。
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【追記】
上の文章はAmazonのレビューとして書いたものである。
本作のネタバレも含む感想はいずれ詳しく書くこととするが、まずはこの本の紹介が先だと感じこのような形をとらせてもらった。
私の書評ブログとしては異例のことだが、それもこの作品が「ノンフィクション」であることが大きい。登場人物が全て実在し、出版からリアルタイムで世論が動いている中で下手なネタバレはしたくなかったのだ。
ただひとつだけ私が意図的にしたことがある。それはある人物の名前について。それまで名前がなく肩書きだけだった人物にせっかく名前がついたのに、なぜこのような書き方をしたのか。
それは本作を読むと合点がいくことと思われる。
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