いくつもの週末と本
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『世界から猫が消えたなら』~主人公が独身だからこそ成立する寓話~
とても読みやすくあっという間に読了してしまい、若干肩すかしをくらった一冊。
そうか、これがベストセラーなのか、そうか……ううむという印象。
よく本を映画化するにあたり、どこを削るかどのエピソードを残すか制作側は試行錯誤するものだが、この本に至ってはそこは簡単で、逆にどう引き延ばすかを考えそうだなとも思った。
内容はとてもシンプル。進行した脳腫瘍により短い余命を宣告された郵便配達員の主人公。その主人公の前に悪魔が現れ「世界からひとつなにかを消すと寿命が1日のびる」と言う。順々に周囲から物が消え、最後の日に僕はある選択を迫られる……。
主人公の「僕」や描写が終始淡々としているので、劇的な場面や悩み苦しむシーンもどこか水槽を隔てた世界で起こっているように薄く読者側もそれほど葛藤を抱かない。
唯一読みながら私が「あっ」と思ったのは、悪魔が悪魔らしかったあるシーンだった。タイトルと冒頭からネタバレどころかそうなることはわかりきっていたはずなのに、それでも「コーヒーと紅茶どっちがいい?」くらいの気安さで「次は~を消そう」となるセリフの、正確にはそれを悪魔が言うだろうと主人公の僕が予感した瞬間だけはゾワッときた。
何をなくしてもいい、それほど大切な物は世の中にはない。でもその数少ない大切な物をピンポイントで消そうとするところがとても悪魔らしい。かくして主人公の不思議な世界はわずか六日間で幕を閉じる。
シンプルでありがちな設定ゆえにこの本の優れている箇所は「自分になぞらえ誰かと共有する」ことが可能な点にあると思う。
私も読んだ後考えた。最後と言われたら電話したい相手は誰か、観たい映画は何か、私にとってはそれは映画より本の方が近いかもしれない。そして自分にとって猫にあたるものは何か。
できれば主人公に近い設定の、独身で特に世界になにひとつ大切なものがなくパッと思い浮かばない頃に読み、思いを馳せたかった。
結婚し子どもがいる私の寿命は、間違いなく子どもが選択肢となった時点で尽きるもの。それはどの親も同じだろうし、もし主人公が誰かの親であったならそもそもこの物語は成立しなかったろう。
物語を物語たらしめられる、その点で猫というのは絶妙なバランスの存在なのかもしれない。ある人にとっては命にも代えがたく、またある人にとっては微塵も価値のない。
「馬鹿だな」「当然だな」主人公のだした結論への評価が両極端であればあるほど、それは作者の思う壺というところだろう。
そうか、これがベストセラーなのか、そうか……ううむという印象。
よく本を映画化するにあたり、どこを削るかどのエピソードを残すか制作側は試行錯誤するものだが、この本に至ってはそこは簡単で、逆にどう引き延ばすかを考えそうだなとも思った。
内容はとてもシンプル。進行した脳腫瘍により短い余命を宣告された郵便配達員の主人公。その主人公の前に悪魔が現れ「世界からひとつなにかを消すと寿命が1日のびる」と言う。順々に周囲から物が消え、最後の日に僕はある選択を迫られる……。
主人公の「僕」や描写が終始淡々としているので、劇的な場面や悩み苦しむシーンもどこか水槽を隔てた世界で起こっているように薄く読者側もそれほど葛藤を抱かない。
唯一読みながら私が「あっ」と思ったのは、悪魔が悪魔らしかったあるシーンだった。タイトルと冒頭からネタバレどころかそうなることはわかりきっていたはずなのに、それでも「コーヒーと紅茶どっちがいい?」くらいの気安さで「次は~を消そう」となるセリフの、正確にはそれを悪魔が言うだろうと主人公の僕が予感した瞬間だけはゾワッときた。
何をなくしてもいい、それほど大切な物は世の中にはない。でもその数少ない大切な物をピンポイントで消そうとするところがとても悪魔らしい。かくして主人公の不思議な世界はわずか六日間で幕を閉じる。
シンプルでありがちな設定ゆえにこの本の優れている箇所は「自分になぞらえ誰かと共有する」ことが可能な点にあると思う。
私も読んだ後考えた。最後と言われたら電話したい相手は誰か、観たい映画は何か、私にとってはそれは映画より本の方が近いかもしれない。そして自分にとって猫にあたるものは何か。
できれば主人公に近い設定の、独身で特に世界になにひとつ大切なものがなくパッと思い浮かばない頃に読み、思いを馳せたかった。
結婚し子どもがいる私の寿命は、間違いなく子どもが選択肢となった時点で尽きるもの。それはどの親も同じだろうし、もし主人公が誰かの親であったならそもそもこの物語は成立しなかったろう。
物語を物語たらしめられる、その点で猫というのは絶妙なバランスの存在なのかもしれない。ある人にとっては命にも代えがたく、またある人にとっては微塵も価値のない。
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