いくつもの週末と本
大好きな作家や本、おすすめの小説の感想などを気ままに書きたい時に書きたいだけ
| ホーム |
『密室殺人ゲーム2.0』~ないと思っていた続きだけに小躍り~


前作『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続き。
前作を読んでいればいるほど楽しめる、まさにシリーズ物の王道。
逆に前作を読んでいないとなんのこっちゃとなること必須。
aXe、ザンギャ君、頭狂人、伴道全教授。そして004APDが返ってきた。
ウェブを通じて殺人ゲームを行い、それぞれが出題者として回答者として殺人クイズを楽しむ5人組。
古典的トリックあり、奇想天外な発想に意外な犯人、ちょっととぼけた癒し系な事件に冴えた推理が炸裂する。
冒頭で前作の衝撃のラストをふまえ、自分達の亜種がでまわっていることに苦言を呈す面々。
どうやらこの世界ではウェブを通じて知り合った同士で殺人ゲームを楽しむという輩が複数いるようだ。
自分達こそ「真の」ゲーマーだと言い気合いが入る彼らは、相も変わらずトリックのための殺人、謎解きのための殺人を行っている。
ここからはややネタバレを含んだ感想となります。
興味がある人は反転して読んでね。
前回のラストがラストだっただけに、話が始まってすぐに「いやいや、aXeが助けを呼びに行ったのはいいとして、そこからはどうなった?なんで普通にゲームを続けてるんだ?」と思ってしまった。
でもまあ、そんな疑問はさておいてと本編を楽しんでいたらふいにあれ?と思わされ一気にやられた!となった。
やはりメインは「相当な悪魔」だ。(有栖川有栖のファンとしてはこのタイトルだけでかなり笑ってしまう)
自分の彼女を殺害するというのも鬼畜ながら、本当は「彼女を手にかける」という意外なフーダニットを狙うために、わざと自分の好みからかけ離れた存在の子と付き合ったというのがもうホントに鬼畜だね。
ただ、どうしても前作を知っているとそれなりにハードルが上がってしまうため、こちらと前作とどちらを押すかと言われると前作となってしまう。
だが、著者が映画の「SAW」シリーズを意識したように、続いているからこそ仕掛けられる妙は充分堪能できた。
テーマそのものが悪趣味なためやはり万人向けとは言い難いが、ミステリ好きならありではないかと思ってしまう。
ことさら残虐にしようという意図はなく案外殺人場面はあっさりしているので、下手に猟奇的殺人事件で詳細に事件を語られるよりはいいと思ってしまうのは私だけだろうか。
![]() | 密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-) (2009/08/07) 歌野 晶午 商品詳細を見る |
スポンサーサイト
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』~ミステリ脳乙!~



これはおもしろい!けど、これを堂々と勧めるのはちょっと後ろめたい気もする。
だから相手がミステリ好きで、パズラーで、本格ミステリを愛していて、色々名作も読んだけれど少し変わった毛色の作品も読んでみたいならば声を小にして言いたい これはすごくおもしろいよ! と。
「頭狂人」「044APD」「aXe」「ザンギャ君」「伴道全教授」互いにハンドルネームで呼び合い、本名どころか素顔も隠してウェブチャットに興じる5人。
彼らの共通した趣味は殺人事件の謎解きだ。毎回一人が出題者となり、他の四人が探偵役となる。
だが問題は彼らが出題している内容は本でもなく空想でもない、現実に起きている事件であるということ。
そう、殺人事件は毎回彼らの誰かが犯人となって起こしているのだ・・・。
この設定にもうやられた!と思ってしまう。
よくミステリ小説で言われるのが「トリックが奇抜すぎてなぜそうしたのか不自然」だの「犯人が連続殺人をする動機が不十分」だので、そこを批判されないために作者が知恵を絞ってああでもないこうでもないと理屈をこじつけるわけだが、これだと「トリックを試してみたくて殺りました」でも「ミッシングリンクのために複数殺しました」でもかまわないわけだ。
もちろん殺人ゲームなんて!と眉をひそめる人も多かろうとは思うが、あくまで登場する5人はゲームを楽しむのが第一で殺人はその手段なので、あまりどろどろとしておらず軽く流せると思う(おいおい)
ミッシングリンクあり、密室あり、アリバイ崩しあり、ダイイングメッセージありの荒唐無稽な事件の報告とその解決が全てカメラつきのチャット(だが素顔は見えない)で行われ、仲がよいのか悪いのか不明の5人がテンポよく会話する様子がおもしろい。誰もわからない事件に犯人役が得意げになったり、互いをライバルと思い推理合戦で出し抜こうとしてつい言い争いになったりと、いつの間にか読者までその怪しげなゲームの一員になったかのような錯覚を覚える。
そして順々に出題者となりややこのパターンも飽きてきたなと思うあたりの急展開が小気味よい。
そうか、本当はこれをやりたいがためのこの設定なんだとわかり、著者のアイデアに度肝を抜かれる。
完全に油断していた分驚きも強かった。だがやっぱり悪趣味だよなあ。でもやっぱりおもしろいや。
以下ネタバレ含む感想です。反転して読んでね。
何が騙されたって、私はなぜか最初から「頭狂人」がイケメンの若い男性だと思い込んでいたんだよね。著者のミスリードなんだけど、最初の事件で学生に聞き込みをするあたりで若い女性に警戒心を抱かれない風貌からそう思わされていた。ダースベーダー好きは男性に多いし、完全にそこを疑わなかったなあ。逆に「aXe」は女性だと思ってた。嫌味な言い方がそれっぽかったんで。まさに裏をつかれてる、悔しいけど完敗だ。コロンボちゃんの声にしてもそうだし、作者は個性的なキャラクターの中にさらりと謎を隠しておくのがうまいなあと思った。
![]() | 密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫) (2010/01/15) 歌野 晶午 商品詳細を見る |
| ホーム |