いくつもの週末と本
大好きな作家や本、おすすめの小説の感想などを気ままに書きたい時に書きたいだけ
| ホーム |
『笑う大天使(ミカエル)』~お嬢様というよりはおぜうさまだな~




あらためて絵を見ると古いなあと思うが、話のおもしろさは今でも充分変わらない。
川原泉のマンガはいつも、笑って笑って笑って、思いっきり楽しんだ後にほろりとなぜか泣ける。
全部で3巻と短い中にたくさんのドラマがあり、特に主人公3人の一人一人を個別に深く描いた3巻が大好きだ。
良家の子女ばかりとうたわれる、名門のお嬢様学校に通うこととなった3人の少女が主人公。
スポーツが抜群でその凛々しい風貌から1年生に「オスカル様」と慕われている斉木和音。
頭脳明晰でその小さく愛らしい容姿から3年生に「コロボックルちゃん」とかわいがられる更科柚子。
文武両道な転校生で同学年の2年生から「ケンシロウ様」と救世主にされてしまった司城史緒。
3人はそれぞれ他の生徒達には秘密にしていたが、根は庶民の猫かぶり。あまり接点なく過ごしていたのに、ひょんなことから互いの本性がわかって意気投合する。
なんせ3人のキャラ設定がよく、猫をかぶっている子女ぶりとバレてからの庶民っぷりの落差がおもしろい。
ネタバレになるから詳しくは述べないが、文緖が転校し早々他の二人にバレた瞬間の絵面がなんとも言えない。少女マンガが耽美な世界でお目々に星があって苦手という人も、ぜひぜひこれは読んでもらいたい。
川原泉の何がいいって、彼女の作品はどれもセリフが愉快で痛快なんだよなあ。他のキャラに対しての鋭いツッコミや毒舌のセンスが抜群。読んでいてくすっと笑ってしまうし、特に他人をおとしめているわけでもないので爽快だ。
そして長く続いた話が一段落した後の、それぞれ3人を個別に描いた「空色の革命」「オペラ座の怪人」「夢だっていいじゃない」が特におすすめ。
これを描くために1~2巻があったんだなと思うくらい内容が濃くて深い。3人の状況はこれまでもちゃんと説明済みだしそれをふまえての物語なのだけれど、今までは語られなかった家族の関係だとか個人の思いだとか、3人のよさがすごくつまっていると思う。
これを読むといっそう彼女らが好きになるし、そして主役の一人以外の二人がもう一人を心配し思いやり話す場面があたたかでなんだかほっとする。
以下ネタバレ含む感想。反転して読んでね。
私が特に3巻で好きだったのは柚子の章「オペラ座の怪人」だ。ロレンス先生の故郷であるイギリスのお城に行く場面も、そこでおハルさん達と過ごした日々もとてもいい。クマのぬいぐるみルドルフ・シュミット氏との出会いで見なかったふりをする和音に文緖が突っ込む場面や、翌日朝食の席でやっぱり見なかったふりをする執事さんがかわいい。
そしておハルさんが亡くなった時にかけつけたルドルフに柚子が何度も何度も「がんばったのにね。せっかく急いできたのにね。」と語りかけるシーンでは、わかっていても泣けてしまう。このあたたかく切ない雰囲気を作るのが著者は本当にうまいと思う。
後個人的に好きなのは、文緖と兄の一臣の関係だ。引っ越してすぐまだうちとけていない文緖が一臣をなんと呼ぶかで迷い(お兄様では自分に合わず、にーちゃんでは一臣に合わない)結局無言でフォークを突きつけるところは秀逸。また「夢だっていいじゃない」で出てきた母親の葬式で始めて二人が出会った後、黙々と月夜を歩く場面も心に染みる。兄が妹を思いやって話す言葉も、文緖が一臣に心で「本当は泣きたかったんだよ」と話しかけるところも好きだ。そうやって二人が互いを大事に思うからこそ、タイトルとなった文緖の気持ちが痛いほどわかるのだと思う。
![]() | 笑う大天使(ミカエル) (1) (花とゆめCOMICS) (1987/11) 川原 泉 商品詳細を見る |
スポンサーサイト
| ホーム |